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2024/07/06 09:25 |
六道の辻
学生の頃8月の末から9月の初旬にかけて毎年のように京都へ行っていた。
青春18きっぷを購入して、新幹線を使わないのんびりとした旅行であった。一般には京都の夏は暑いからと敬遠されがちだが、旧盆行事を過ぎた後のなんとなく一仕事を終えた後のような京都の雰囲気は悪くなく、私は地図で目に付いた神社仏閣庭園をただただ一日中巡っていた。どこも少々高めの拝観料を取ることが玉に瑕だが、営業時間(w)内は何時間いてもとがめられることはないので、人が来ないのを見計らってはかつての特権階級が見たかもしれない庭園を、寝転がって眺めたり、畳の上で大の字になってみたり、軒下でただただボーっと道行く人を眺めるのは、今となっては考えられない程贅沢な時間の使い方であった。そんな晩夏の京都でのある日、私は思い立って六波羅あたりを散策しようと、宿泊していた五条あたりの旅館を出立した。

そこから六波羅は目と鼻の先である。今朝食べた旅館の朝食であるカレー(!)の重さを胃袋に感じながら、かつてそこが阿鼻叫喚の地獄絵図の舞台であり、空也がストリートパフォーマンスを行い、長い間葬送の場であった名残が何かないだろうかと、ワクワクしながら足取り軽く歩いていた。私のすぐ脇を車が結構なスピードで通り過ぎていく、京都のドライバーは運転が荒いんだよ、などと思いながら地図を頼りに六道珍皇寺や六波羅蜜寺などを探していたのだが、なぜかなかなか現場にたどり着かない。当然のことながら、600年前の戦場跡や葬送の場の名残なんかはこれっぽっちもない住宅街であるのだが、似たような建物が多いせいか、同じ場所をぐるぐる徘徊しているような錯覚にとらわれてきた。


>>それから五条通を越えて北へ歩き、線香の煙がもうもうとしている六波羅蜜寺の前
>>を通って、ごちゃごちゃした横町をあてずっぽうにうろうろした。このあたりは六
>>道と呼ばれている。そして私がさがしているのは、大椿山六道珍皇寺という寺なの
>>だった。京都の町筋に私がとんと明るくないためか、べつにそれほど分かりにくい
>>地域にあるわけでもないのに、寺はなかなか見つからなかった。見つからないと思
>>うと、暑さが一層こたえるようであった。(澁澤龍彦「六道の辻」)(*1)


後年何の気なしに読んだ澁澤龍彦も小説の中で夏場に同じ場所で道に迷っていた。トレードマークのサングラスの下で、彼のすまし顔が暑さと焦りで歪み、どんどん機嫌が悪くなっていく様が想像できて微笑ましい。彼の捜し歩いた六道珍皇寺はいわゆる「愛宕寺(おたぎでら)」であり、「六道さん」という通り名で知られ、門前がいわゆる「六道の辻」である。これはこの寺院が葬送の地鳥辺山のふもとに当たることから、冥府への出入口として古来有名であり、小野篁が閻魔庁へ夜のバイトに行くのはこの寺の井戸からだったという伝説がある。

ちなみに六道とは仏教用語で、天道・人道・阿修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道を指し、すべての衆生が生前の業因によって生死を繰り返す六つの迷いの世界であり、この迷いの世界から逃れたことが、「解脱(悟り)」なのである。ここはその名の通り今も六道の辻であるのかもしれない。ここで道に迷うのはきっとデフォルトなのである。仕方がない、所詮私も迷える衆生の一人、ここ六道の地は誰もが迷うのである。


板橋にて

仕事で車の運転をすることになった。自慢ではないが、ほぼペーパードライバー歴17年の私である。年に数回のレンタカーによるドライブぐらいしかしなかった私を営業車に乗せる会社の神経を疑うが、社蓄ゆえに社命は絶対なのである。正直な話不安で食事がまともに取れず、数日間思い悩んでいた。苦労して再就職した職場を短期間で慣れない仕事に配置転換され、転職も考えるが就業期間の短さ故にふんぎりがつかず、心労だけが重なっていく。そんな先週の月曜日(7/9)、板橋の成増周辺から高島平方面へ同僚と車で移動する最中、迫ってきた交差点表示に「六道の辻」という文字が目に飛び込んでギョっとした。同僚はまったく興味なく、信号が赤から青に変わるとそのままアクセルを踏み込んだ。私はこんな場所に「六道の辻」があったことに、なんだかわからないが久々に心浮き立ちうれしかった。どうやらこの交差点は道が三本交差する文字通りの「六道の辻」である。私と同僚はここで道を間違えることなく、直進して目的地へ到着した。


六道の辻@板橋


(*1)澁澤龍彦『唐草物語』(河出文庫 1996年2月)
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2007/07/15 10:44 | Comments(0) | TrackBack() | 雑感

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